監修:名古屋市立大学大学院 医学研究科 病態医科学ウイルス学分野 教授 田中靖人先生
肝臓は人の体の中でいちばん大きな器官で、日本人の成人の肝臓の重さは、男性で約1,450g、女性で約1,240gです。
肝臓は、わたしたちが生きていくために、とても重要な役割を果たしています。
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)に感染して起こる肝臓の病気です。
HBVは、人間の肝臓の細胞にすみついて増殖します。人間の免疫機能が肝臓の異常に気づき、異物であるウイルスを排除しようと、ウイルスだけでなく感染した肝臓の細胞も一緒に攻撃してしまうことによって、炎症が起こります。これが「肝炎」です。
B型肝炎は、HBVに感染した時期、感染したときの健康状態によって、一過性の感染に終わる一過性感染(B型急性肝炎)とほぼ生涯にわたり感染が継続する持続感染(B型慢性肝炎)とに大別されます。
B型肝炎ウイルス(HBV)は血液や体液を通して感染します。
具体的には以下のような場合に感染する可能性があります。
B型急性肝炎からB型慢性肝炎に移行することもあります4)
B型急性肝炎では、B型肝炎ウイルスに感染して1~6ヵ月ほどで全身のだるさや吐き気のほか、濃いウーロン茶色の尿が出る、眼の白い部分や皮膚が黄色くなる(黄疸)などの症状が出ます。症状がさらに重くなる「劇症肝炎」になることもあります。劇症肝炎に至らなければ、数週間で回復に向かい、ウイルスは排出されます。
しかし近年、成人になってからB型肝炎ウイルスに感染して急性肝炎を起こし、その後に慢性肝炎に移行する場合も増えているので注意が必要です。
日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編. B型肝炎治療ガイドライン(第3.1版)p2,2019.より転載
https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b(2019年6月参照)
B型肝炎ウイルスの感染はワクチンで予防することができます5)
日本では1986年に開始された「母子感染予防対策事業」に基づき、B型肝炎ウイルスに持続感染している母親から生まれた子供への予防接種などが行われ、母子感染は減りつつあります。
B型肝炎の人と同居している場合や、パートナーがB型肝炎ウイルスに感染している場合、医療従事者、消防士、救急救命職員、警察官などの血液に触れる可能性のある仕事をしている場合など、B型肝炎ウイルスに感染するリスクの高い人は、B型肝炎ウイルスのワクチンを接種して、感染を予防することができます。
B型肝炎ウイルス(HBV)に感染しているかどうかは、血液検査で、「HBs抗原」と呼ばれるB型肝炎ウイルスの外側のたんぱく質を調べればわかります。 HBs抗原の有無を調べる「肝炎ウイルス検査」は、お住いの自治体の検診や職場の健康診断などで受けられます。まだ受けたことがない方は確認してみるとよいでしょう。 検査の結果、HBs抗原が陰性であれば、B型肝炎ウイルスには現在感染していないと考えられます。陽性の場合は感染していますので、専門の医療機関でさらに詳しい検査を行う必要があります。
HBs抗原が陽性の場合、B型肝炎の病状を知るために、血液検査(一般肝機能検査・肝腫瘍マーカー)とともに、①HBe抗原/HBe抗体、②HBV-DNAを測定します。
AST (GOT)・ALT(GPT) | 40-50 U/L未満が目安。肝炎の場合はAST・ALTは異常高値。AST・ALTが高ければ高いほど、肝炎の程度は強いと言える。AST ・ALTの異常高値が長期間続くと 慢性肝炎から肝硬変へと進行する。 |
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血清ビリルビン値 | 1~1.5mg/dL以下が正常値。3.0mg/dL以上になると眼球結膜あるいは皮膚が黄色くなる「黄疸」が出現し始める。 |
HBs抗原 | B型肝炎ウイルスが持っているたんぱく質 陽性ならB型肝炎ウイルスに感染していることを示す。 |
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HBs抗体 | 過去にB型肝炎ウイルスに感染して治った人、あるいはB型肝炎ウイルスワクチンを接種した人は陽性になる。この抗体があればB型肝炎ウイルスには感染しない。 |
HBc抗体 | 陽性ならB型肝炎ウイルスに感染したことを示す。 |
HBe抗原 | B型肝炎ウイルスが活発に増殖しているときにつくられるたんぱく質 陽性ならウイルスの増殖力、他の人へ感染する可能性が高いことを示す。 |
HBe抗体 | 陽性ならウイルスの増殖力、他の人へ感染する可能性が低下していることを示す。 |
HBV DNA | B型肝炎ウイルスの量を測定する検査。ウイルスの量により治療方針が異なる。 |
HBV遺伝子型 | 病態や予後を推定。 |
B型肝炎ウイルスの遺伝子型(ゲノタイプ)について、日本では主にゲノタイプA、B、C、Dの4種がみられ、それぞれ経過や治療の効果に違いがあることが知られています。
B型肝炎ウイルスに感染していても、「無症候性キャリア」や「非活動性キャリア」の人に対しては特に治療を行いません。
検査の結果、主に以下のような条件に当てはまる場合、治療が必要なB型慢性肝炎と診断されます。
B型肝炎の治療目標は肝硬変や肝がんへの進行を抑えることです。
B型肝炎ウイルス(HBV)に持続感染している体から、ウイルスを完全に追い出す治療法は今のところありません。
そのためB型急性肝炎は、十分な栄養管理をしつつ、安静にして自然軽快を待ちます。
B型慢性肝炎の治療は、ウイルスの量を減らすことを短期目標に、長期的には、炎症を鎮めて肝硬変や肝がんに移行しないようにすることを目標に行います。
血液検査でALT値が高かったり、上昇傾向にあったりする場合や、HBV DNA量が多い場合、肝臓の線維化が進んでいる場合は、お薬による治療を行います。
お薬による治療はせず、経過観察となった場合でも、40歳以上、男性、飲酒者、他の肝炎ウイルス感染者など、肝がんへ移行するリスクが高いと考えられる場合は、画像検査による肝がんの検診を定期的に受ける必要があります。
主な治療は、B型肝炎ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス療法」です。B型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法で使うお薬には、注射薬である「インターフェロン(IFN)」と内服薬である「核酸アナログ製剤」があります。
IFNによる治療では、ウイルスの増殖を抑えるとともに体にもはたらきかけ、免疫を活発にしてウイルスの量を減らします。IFNが効くかどうかは、年齢やB型肝炎ウイルスの遺伝子型などによって異なります。
核酸アナログ製剤による治療では、肝臓の細胞の中でウイルスが増殖するのを抑えます。薬を飲んでいる間はウイルス量が減り肝炎が鎮まります。急に薬を飲むのをやめると炎症が悪化することがありますので、医師の指示をよく守りましょう。
これらの抗ウイルス療法については、治療費が高額になっても一定の自己負担額で済むように助成が受けられます。治療の方法によって助成の期間は異なります。B型慢性肝炎の医療費助成の申請については、各都道府県の窓口に相談しましょう。
周りの人にうつさないよう注意することも大切です。
自分がB型肝炎ウイルスに感染しているとわかったら、献血を控え、タオルや歯ブラシ、ヒゲソリの刃やピアスのピアッサー、バリカンなど、血液の付着するものを他人と共用しないなどの感染対策が重要です。